愛猫の輸出手続 第一章:序論

猫の輸出手続
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本記事は日本から台湾への猫の輸出手続について定めた法令の内容を確認することを目的としており、必ずしも理解しやすい内容になっていません。
猫の輸出手続について書類のサンプルやフローチャート等を用いてわかりやすくまとめたページはこちらです。

本記事は2018年の秋から冬にかけて筆者が調べた情報をもとに、2020年の夏に執筆されています。最新の情報を反映できていない可能性がありますので、ご注意ください。

本ブログの開設記念として、愛猫を日本から台湾に輸出する際の手続についてまとめた文書を寄稿します。我ながら、あまりの出来栄えの良さに、母校の法学部の論文集に寄稿しようかと思いましたが、残念ながら卒業生の寄稿は受け付けていないようでしたので、断腸の思いで本ブログに掲載する次第です。本ブログでは、母校の法学部からの講演依頼をお待ちしております。

なお、そこそこのボリュームがありますので、各章につき1記事ずつ投稿いたします。

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愛猫の輸出手続 第一章:序論

1.主題

 本稿では、猫を日本から台湾へ輸出する場合の各種手続を有機的に結び付けて整理するとともに、これらの手続に係る根拠法令を可能な限りにおいて明示することを目的とする。

2.愛猫を携えての渡台

 筆者の配偶者は猫を養育している。筆者の主観に基づくが、猫は「ふかふか」「もこもこ」しており、良い香りがする。また、気ままな性格で攻撃的な一面があるにもかかわらず、就寝時には筆者に寄り添うといった可愛い面がある。(猫に関する記述を更に続けたいところであるが、紙面の都合上、割愛する。)

 一方、日本の給与所得者は勤務地が限定されておらず、転勤を伴う雇用形態が多いことから、猫を飼育する給与所得者が台湾への転勤を命じられた際は、愛猫(猫のうち家族と同等以上の愛情を注いでおり、台湾への輸出対象となるものをいう。以下、本稿において同じ。)とともに渡航せざるを得ない。(なお、愛猫が高齢で渡航に耐えうる体力が無い等の事情があれば、速やかに転職すべきであろう。)

 このように、愛猫を養育する給与所得者(台湾への赴任の可能性がある者に限る。)にとって、愛猫を日本から台湾へ輸出する際の手続は非常に重要である。

3.愛猫と狂犬病

 日本から台湾への愛猫の輸出について手続が膨大となっているのは、狂犬病対策としての検疫手続が原因である。そこで、愛猫の輸出手続について検討する前に、その前提知識となる狂犬病の概要について確認したい。

(1)狂犬病の特徴

 狂犬病の特徴 狂犬病の特徴は次のとおりである。

  • 毎年、世界中で年間5万人以上が死亡する。
  • 発症するとほぼ100%死亡する。
  • 犬だけでなく、猫を含むほぼ全ての哺乳動物から感染する可能性がある。

狂犬病は世界中で年間5万人以上が死亡する人畜共通感染症です。発症するとほぼ100%死亡します。狂犬病はほとんど全ての哺乳動物から感染する可能性があります。感染症法では4類に分類されています。

https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name47.html
厚生労働省検疫所 FORTH 海外で健康に過ごすために
感染症についての情報
狂犬病 Rabies

Q4 どのような動物から感染しますか。

A4 感染動物すべてから感染する可能性がありますが、主な感染源動物は以下のとおりです。渡航中は特にこれらの動物に咬まれないように注意してください。中でも、犬が人に対する主な感染動物です。

アジア、アフリカ;犬、ネコ

アメリカ、ヨーロッパ;キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ネコ、犬

中南米;犬、コウモリ、ネコ、マングース

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html
厚生労働省
狂犬病に関するQ&Aについて

 上記のとおり、人間が狂犬病にり患した場合、ほぼ100%死に至る。そして、猫も狂犬病の感染源の一つであるとされている。このことから、各国とも狂犬病の対策として、輸入時の検疫を実施している。

(2)清浄地域と非清浄地域

 狂犬病ウィルスが撲滅され、存在しないとされる国・地域を清浄地域といい、狂犬病ウィルスが撲滅されていない国・地域を非清浄地域という。

 日本の法令上、台湾はかつて清浄地域に分類されていた。(平成11年12月27日農林水産省告示第1628号(犬等の輸出入検疫規則第四条第一項の規定に基づき、農林水産大臣の指定する地域を定める等の件))しかし、2013年に台湾で狂犬病にり患したイタチアナグマが台湾で発見されたことを受け、同年に台湾は非清浄地域へと変更された。(農林水産省告示第2316号)以後、現在に至るまで台湾は狂犬病非清浄国となっている。

2013年7月16日、台湾行政院農業委員会は、野生のイタチアナグマに由来する検体を検査した結果、狂犬病であることを確定診断した旨を公表しました。

これに伴い、2013年7月17日より、台湾を狂犬病の非清浄地域として取り扱うとともに、2013年7月25日、関係する告示が改正されました。<略>

https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/eisei/rabies/
水際における狂犬病対策について
犬等の輸出入検疫制度の一部改正について(台湾から犬等を輸入される方へ)

 一方、台湾において、日本は清浄地域に分類されている。この点について明確に定めた台湾の法令や通達等を確認することはできなかったが、第三章:「愛猫の台湾入国手続」で参照する台湾政府当局の各公式ウェブサイトでは、日本は清浄地域とされている。また、日本では1956年以降、輸入症例を除き狂犬病の発生実績はない。したがって、以下本稿においても「台湾において、日本は清浄地域に分類されている」という前提で論ずる。

4.日本から台湾への愛猫の輸出手続の概要

 本稿では、愛猫を日本から台湾へ輸出する場合の各種手続を有機的に結び付けて整理することを目的の一つとしているが、まずは愛猫を日本から台湾へ輸出する場合における各種手続の概要を確認したい。

 愛猫の輸出については、次の3つの場面において、それぞれ手続が必要となる。

  • 「A.愛猫の日本出国手続」
  • 「B.愛猫の台湾入国手続」
  • 「C.愛猫帰国時の待機期間短縮手続」

 一つ目の「A.愛猫の日本出国手続」とは、読んで字の如く、愛猫を日本から出国させるための手続である。これを実施しなければ、愛猫を飛行機へ搭乗させることができない。

 二つ目の「B.愛猫の台湾入国手続」とは、愛猫とともに台湾へ降り立った後、愛猫を連れて空港から出るための手続である。これを実施しなければ、愛猫は空港で係留されたり、日本へ返送されたり、最悪の場合は殺処分されたりするおそれがある。

 三つ目の「C.愛猫帰国時の待機期間短縮手続」とは、一度、台湾へ連れて行った愛猫を日本へ再入国させるために必要な手続である。清浄地域である日本から非清浄地域である台湾に愛猫を輸出する場合、狂犬病のリスクが小さいことから検疫手続は比較的軽微となっている一方で、非清浄地域である台湾から清浄地域である日本に愛猫を輸出する場合、検疫手続が非常に厳しくなっている。(複数回の狂犬病予防接種、抗体化検査、180日間の日本入国制限など。)しかしながら、日本出国前に一定の手続を行っておくことにより、この再入国制限の規定が不適用となる。筆者は個人的に、愛猫への負担の観点から、愛猫を高頻度で航空機に搭乗させることは避けるべきと考えているが、万が一、やむを得ない事情により愛猫とともに日本へ緊急帰国せざるを得ない事情が発生した場合のことを考えると、日本出国前に「C.愛猫帰国時の待機期間短縮手続」も実施しておくべきである。

5.政府当局公式ウェブサイトに対する評価および筆者の観点

(1)政府当局公式ウェブサイトに対する評価

 上記4.の各種手続は日本政府の動物検疫所および台湾政府の台北駐日経済文化代表処の公式ウェブサイトから確認することができる。詳細な内容およびウェブサイトのURLは次章以下において記載しているが、全体的にこれらのウェブサイトの記述は非常に詳細である。筆者は実際にこれらのウェブサイトの情報をもとに愛猫を台湾に輸出しており、その経験に照らしてこれらのウェブサイトは非常に有益であると評価している。

(2)筆者の観点

 政府当局公式ウェブサイトでは必須伝達事項が最大公約数的に紹介されており、これは公的機関のウェブサイトという特性に鑑みて、大いに評価されるべきことである。一方、実際にこれらのウェブサイトの情報を参照して愛猫を台湾に輸出した筆者としては、政府当局公式ウェブサイトとは別に、次の観点から愛猫の台湾への輸出手続について下記の観点から紹介したウェブサイトがあれば、今後の愛猫の輸出者にとって更なる便益が生じるのではないかと考えている。

  • 観点①:日本からの輸出時の手続に必要な要件と、台湾での輸入時に必要な要件を有機的に関連付けて説明すること
  • 観点②:愛猫輸出時に日本および台湾で必要となる各手続につき、当該手続の実施を定めた根拠法令を紹介すること

(3)観点①:各手続の関連性について

 上記4.のとおり、愛猫を日本から台湾に輸出する際はそれぞれの場面で3つの手続が必要となるが、愛猫の輸出手続が複雑化している原因として、「A.愛猫の日本出国手続」のみを検討した場合には要求されていないものの、「B.愛猫の台湾入国手続」および「C.愛猫帰国時の待機期間短縮手続」として必要となる要件を充足するために、「A.愛猫の日本出国手続」の段階で対応しなければならない手続が複数存在するという点が挙げられる。

 そこで本稿では、「A.愛猫の日本出国手続」→「B.愛猫の台湾入国手続」→「C.愛猫帰国時の待機期間短縮手続」の順で、各公的機関の公式ウェブサイトや関係法令等を参照しつつ、「A.愛猫の日本出国手続」で必要となる要件を次章以下の各章の末尾でアップデートしてゆく形式により、これら3つの手続を有機的に関連付けて整理することとしたい。

(2)観点②:根拠法令の確認について

 筆者は給与所得者として政府当局からの許認可申請に関する仕事に約8年従事してきたが、「当該申請で必要となる各手続につき、それらの法令上の根拠を確認すること」が許認可業務における要諦であると理解している。許認可申請業務に際して私がこれまで接してきた政府当局担当者は、「民間企業の事情も酌みつつ、法令で定められたことを要求し、定められていないことは要求しない」という意味において良心的な方が多かったが、残念なことに、ごく少数ではあるが「法令で定められていないこと(=過剰な添付書類の提出)」を要求する担当者も存在した。これに対する対抗手段として、法令上の根拠の有無を事前に把握しておき、法令上の根拠がない要求については対応の免除を求めるという折衝方法がある。

 上記の許認可申請に係る実務上の経験から、筆者としては、万が一、愛猫の輸出手続に際し理不尽な要求をする政府当局担当者と遭遇した場合に備え、愛猫輸出に係る手続の内容だけでなく、その根拠法令についても把握しておきたいと考えていた。(なお、結果として、今回筆者が愛猫を台湾に輸出した際にお世話になった日本当局および台湾当局の皆様は、非常に親身な対応をしていただき、理不尽な要求は一切なかった。この場を借りてお礼申しあげたい。)

 実際に筆者が輸出手続を行っていた際は、根拠法令を確認する時間的な余裕がなかったため、やむを得ず公式ウェブサイトの記載内容のみを参照して粛々と対応したが、今後、筆者と同様に、愛猫を日本から台湾へ輸出される方で、根拠法令を確認したいという奇特な方がいらっしゃるかもしれない。そこで、本稿においては各手続の根拠となる法令および通達等についてもあわせて明示することとする。(ただし、調査することができた範囲に限る。)

(第二章へ続く)

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