久しぶりに法務の新人を指導することになったので、今日(8月2日)、最初に言ったことをメモしておきます。
自分で「そんなこと言ったっけ?」ってなったら嫌なので。
「私もまだまだできていないので、自戒を込めてですが」と前置きしたうえで、次のとおり話しました。
1.秘密は守ること
仕事柄、まずこれが出てきました。
入社してすぐの頃は、同期同士で「最近、どんな仕事やってるの?」など、話題に出そうですし。
2.地味な仕事であることを覚悟すること
次に、これも言いました。
営業とかは配属されてすぐにいろいろな案件を担当する一方、法務は基本的に地味な仕事しかないので。
3.たまに忙しいときがあるので覚悟すること(メリハリをつける必要があること)
危機管理とかコンプライアンスとかの案件ですね。
4.判断に迷ったら安全な方を選ぶこと
意図的に、ギリギリのところを責めるような場合は別ですが。すぐ先輩に相談できるような環境ではなく、何か一人で結論を出さないといけないようなときは、安全な方を選ぶように言いました。
5.平均点を取り続けるよう努めること、絶対に0点を取らないこと
「条文や判例は前提条件にしかならず、それをもとに自分で判断しないといけない系の案件」と、「条文や判例に答えが書いてあって、間違えると即法令違反系の案件」の2種類がある、と言いました。前者は契約案件とか、後者はコンプライアンス審査とかですね。
たとえば契約審査なら、「民法で考えると、●●というリスクがある」というところまでわかったうえで、「リスクが高いので取引をやめた方がよいと考えます」という選択肢がある一方、「リスクは高いですが、▲▲という方法でリスクヘッジできますので、取引を続けてもよいと考えます」という選択肢もあるかもしれまえん。民法上の知識を前提に、そこから想定される結果に対する対処方法については、法務担当者同士でも、判断が分かれるというのはあり得ます。
なので、100点満点の対応というのは難しいです。ただ、「仮に担当者がAさんであってもBさんであってもCさんであっても、普通の法務担当者なら、このポイントは指摘するだろう。」という点も存在します。このような最低限の共通項を漏らさず指摘することが、ここで言う「平均点を取り続ける」ということです。
一方、たとえば独禁法の法律相談で「競合他社と価格情報を交換しても全く問題ありません」というような回答をしてしまうと、即、法令違反の危機です。このように「条文や判例に答えが書いてあって、間違えると即法令違反系の案件」で誤った回答をしてしまうことを、ここでは「0点を取る」と言っています。
・・・・・・というようなことを言いました。
6.各担当者のやり方を学び、比較すること
上記5.に関連するのですが、「条文や判例は前提条件にしかならず、それをもとに自分で判断しないといけない系の案件」では、法的検討の後、「そこからどのように対応するか」の部分で、法務担当者の判断に差が出ることがあります。
そのため、可能な限りで先輩や同期など、他の担当者の案件対応法を見て学び、自分の中でストックを貯めておくことが望ましいです。
・・・・・・というようなことを言いました。
7.依頼元とのやりとりについては、メールも含めて保存しておくこと
上記5.に関連するのですが、「条文や判例は前提条件にしかならず、それをもとに自分で判断しないといけない系の案件」では、法的検討の後、「そこからどのように対応するか」の部分で、法務担当者の判断に差が出ることがあります。
そのため、
- 依頼元からは、どのような状況(前提条件)だとの話があったか
- そのような状況に対して、自分はどのように考えたので、この結論を出したのか
というポイントについて、後から別の法務担当者が読んだときに分かるよう、簡単にでもよいのでメールで触れておくことが大事です。そうしないと、自分が何を考えてこの案件を担当していたのか、後任の担当者が理解できない可能性があるからです。自分が異動になった際、自分がどのような方向性で案件を進めようとしていたのかさえ分かるようにしておけば、後は勝手に後任の担当者が「前任の担当者の方向性を継承するか」「前任の担当者の考え方はダメなので、案件の軌道修正をするか」の判断をしてくれるはずです。
あと、過去に自分が担当していた案件で、将来トラブルが発生したときに、「当時、自分は何を考えてこのように対応したか」という点についてメモが残っていないと、当時の自分の判断が良かったのか悪かったかの検証ができないためです。
・・・・・・というようなことを言いました。
8.大量の案件を捌いているときに実力が衰えるという認識を持つこと
案件が少ないときは余裕があるので、六法で条文を引いたり、本を読んで知識を補ったり、しっかりと法的な検討を踏まえたうえで案件に対応できます。一方、大量の案件を捌く必要があるときは、とにかく時間が無いので、過去の経験だけで案件に対応してしまい、法的な検討が疎かになります。また、六法を引いたり本を読んだりしないので、どんどん知識が抜けてしまします。
このように、大量の案件を捌いているときに「俺、ヤバいな」と感じながら仕事ができるのならまだ救いようがあるのですが、大量の案件を捌いているときは、得てして「俺、凄いな」と勘違いしがちです。
・・・・・・というようなことを言いました。
9.勘違いしないようにすること
プロジェクト系の案件や機密事項の案件に携わっていると、自分が凄くなったように勘違いしがちですが、凄いのは自分自身ではなく対応している案件そのものなので、勘違いせず、常に謙虚でいるように、と言いました。