【安全保障輸出管理】ロシアがNEC製の海底ケーブルを軍事転用したとされる件について

雑記

共同通信が報道していましたが、自分が担当者だったらイヤだなーと思い、メモしておきます。

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1.ニュース記事

最初のニュースと思しきものがコレ。

10/23(木) 13:00配信

【独自】ロシア、NEC製品を軍事転用 海底ケーブル、北極圏で原潜防御

 ロシア軍がNEC製の海底通信ケーブルを軍事転用した疑いがあることが23日、分かった。キプロスの民間企業を通じて調達した製品を、核ミサイル搭載の原子力潜水艦を守るため、敵国艦船を探る北極圏バレンツ海の海中監視網「ハーモニー」の構築に使ったもようだ。海底ケーブルの輸出には日本政府の許可が必要で、最終需要者や使用目的が実際と違う場合は外為法に抵触する。経済産業省がNECに外為法に基づく行政処分や行政指導に踏み切る可能性がある。

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した文書に基づき、共同通信や米ワシントン・ポスト、南ドイツ新聞など10社による取材で、日米欧にまたがるロシアの調達網が判明した。NECは2018年にキプロスの企業に海底ケーブルを売却した事実を認めた上で「軍事利用されるとは考えていなかった」と説明した。

 ICIJが入手したキプロスの会計事務所の文書や関係者によると、NECはロシア国防省に近いキプロスの企業「モストレロ・コマーシャル」に対し、18年に海底ケーブル750キロメートルを売却した。

【独自】ロシア、NEC製品を軍事転用 海底ケーブル、北極圏で原潜防御(共同通信) – Yahoo!ニュース

海底ケーブルって、リスト規制品やったっけ?通信関係で何かあったっけ?と思いながら、ニュースを見てました。

すると、次に出てきたのがコレ。

10/23(木) 19:16配信

「NEC製の海底ケーブルをロシアが軍事転用」と報道→NECが声明 「民生用途との説明受けた」

 共同通信などは10月23日、NECが2018年にキプロスの企業へ輸出した海底通信ケーブルが、ロシア軍によって軍事転用された疑いがあると報じた。核ミサイルを搭載した原子力潜水艦の防衛を目的に、北極圏バレンツ海の海中監視網「ハーモニー」に使用された可能性があるという。
報道によると、NECはロシア国防省と関係が深いとされるキプロス企業「モストレロ・コマーシャル」に対し、18年に全長750kmの海底ケーブルを販売したとしている。この事実は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した関係文書に基づく、共同通信や米ワシントン・ポスト、南ドイツ新聞など計10社による共同取材で判明したという。NECは事実関係を認めている。

 ロシアへの輸出が原則禁止とされたのは22年以降だが、海底ケーブルの場合は事情が異なり、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく「キャッチオール規制」に抵触する可能性がある。これは、兵器の開発や使用などへの転用が懸念される品目を輸出する場合に、経済産業大臣の許可が必要とされる制度で、輸出企業には用途や最終需要者の確認と、必要に応じた許可申請が求められる。

 NECはこの報道を受け、声明を発表。「当該取引先から民生用途との説明を受け、輸出管理にかかわる各国の法令を確認した上で取引を行った」と説明している。22年のロシアによるウクライナ侵攻開始後は、当該取引先との取引を終了していると述べた。

「NEC製の海底ケーブルをロシアが軍事転用」と報道→NECが声明 「民生用途との説明受けた」(ITmedia NEWS) – Yahoo!ニュース

2.筆者コメント

この記事を見て思ったのが、「うわっ、キャッチオール規制かよ」ってとこですね。

キャッチオール規制だとすると、かなり悪意のある書き方じゃないのかな・・・と思う次第です。

以下、ツッコミ。

 これ<筆者注:キャッチオール規制>は、兵器の開発や使用などへの転用が懸念される品目を輸出する場合に、経済産業大臣の許可が必要とされる制度で、輸出企業には用途や最終需要者の確認と、必要に応じた許可申請が求められる。

まず、キャッチオール規制の対象品目について、記事では「兵器の開発や使用などへの転用が懸念される品目」となっていますが、具体的には「木材と食料品を除くすべての製品」が対象です。(輸出貿易管理令別表第一16項)

記事では、海底ケーブルが兵器転用を意図して規制されているような印象を与える書き方になっていますが、あらゆる汎用の工業製品、それこそネジ1本であってもキャッチオール規制の対象です。

次に、「輸出企業には用途や最終需要者の確認と、必要に応じた許可申請が求められる。」の部分ですが、さすがにNECはやっているでしょう。

この、用途・需要者の確認について、「どこまで確認したらOKか」という基準が不明瞭とならないように、キャッチオール規制客観要件では、輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令や明らかガイドライン(「大量破壊兵器等及び通常兵器に係る補完的輸出規制に関する輸出手続等について」(平成24・03・23貿局第1号 輸出注意事項24第24号))が定められています。

これらの法令の基準を満たていることを確認しているのであれば、外為法違反の問題として企業を責めることは難しいでしょう。

ということで、最初の記事にあった

海底ケーブルの輸出には日本政府の許可が必要で、最終需要者や使用目的が実際と違う場合は外為法に抵触する。

という点も、正確ではないですね。

前述のおそれ省令に基づきザックリ簡単に書くと、外為法に抵触するのは次の場合です。

  • 最終需要者が核兵器等の開発等を行うことor過去に行ったことを知った場合
  • 製品の用途が核兵器等の開発等であることを知った場合

なので、「最終需要者や使用目的が実際と違う」=「外為法に抵触」とはならないです。

あと、キャッチオール規制違反として理論上考えられるのは、インフォーム要件違反(経産省からの通知を無視)がありますが、これをNECがやるとは考え難いです。

経済産業省がNECに外為法に基づく行政処分や行政指導に踏み切る可能性がある。

というのは、おそらく、無いでしょう。

だって、落ち度がないですもの。

むしろ、当時、そのような情報を入手できなかった、あるいは入手していたとしても先手を打てなかった経産省のメンツが丸潰れなので、経産省も、このような報道が出ることはイヤだと思います。そっとしておいてほしいのではないかと思います。

以上、つらつらと書きましたが、全体を通して、(NECが外為法に則って用途要件・需要者要件の審査を行っているという前提であれば)偏向的な記事だなーと思って見ていました。

3.NECのニュースリリース

さて。

一連の報道に対するNECのニュースリリースがコチラ。

海底ケーブルシステムに関する一部報道について

2025年10月23日
日本電気株式会社

本日、一部報道機関で報道されている当社が2018年に納入したロシア国内向け海底ケーブルシステム案件について、当社は当該取引先から民生用途との説明を受け、輸出管理に係る各国の法令を確認した上で取引を行いました。当社は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始を受け、当該取引先との取引を終了しています。

海底ケーブルシステムは人と人、国と国とを結ぶ重要な社会インフラであり、当社は引き続き急速に変化する国際情勢に応じた適切な輸出管理のもと、海底ケーブルシステムの提供を通じてデジタル社会の発展に貢献してまいります。

以上

海底ケーブルシステムに関する一部報道について | NEC

見る人が見れば、当時適切に審査していたことが分かるように、シンプルに説明されていて見事です。

もし私が担当者だったら「引き続き急速に変化する国際情勢に応じた」の部分は削除するかなーと迷うところです【※】が、とにかく端的な声明だと思います。

【※】「こういう問題が発生しているのだから、急速に変化する国際情勢に応じた対応ができてへんやろ」みたいな訳のわからないツッコミどころを与えないため。(とにかく端的に、法的に問題ないということを伝えるのに徹したほうがベターかなー?と悩むところです。)

4.まとめ

いろいろ書きましたが、偏向報道はやめてほしいです。

もし、自分が本件の審査をしたNECの担当者だったらイヤな気持ちになったと思います。

皆さん、2018年時点で、2022年のウクライナ戦争を予見できますか?諜報機関に所属していない凡人には無理でしょう。

法的瑕疵のないものを、後出しじゃんけんで、悪意を持って報道するのはいかがなものかと思います。

5.おまけ

この記事を書こうと思って久しぶりに輸出貿易管理令を開いたら、別表第一16項の中身が増えていてめっちゃ焦りました。

今月、法改正があったのですね。

補完的輸出規制の見直しについて(2025年10月9日施行) (METI/経済産業省)

実務から遠ざかっているので、何とももどかしい気持ちです。

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