書評:契約書作成の実務と書式 — 企業実務家視点の雛形とその解説(初版)

書評(本以外含む)

手元にあった台湾法の本ばかり紹介しましたので、気分を変えて普通の企業法務の本を取り上げます。

契約書作成の実務と書式 — 企業実務家視点の雛形とその解説(初版)
阿部・井窪・片山法律事務所 (編集)

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はじめに

この本は改正民法に対応した第2版が2019年に販売されていますが、本稿では初版についてレビューします。私は2019年から契約業務の最前線から外れており、第2版を購入していないためです。今のうちに初版について記録しておくことで、将来、契約業務の最前線に呼び戻されて第2版を読んだ際、初版と第2版の違いが分かるようにしておこうという意図もあります。

本書は有名な本であり、既にいろいろな方がレビューされているので私が紹介するのも恐れ多いですが、自分なりに良いと思う点は次のとおりです。

  1. 取り扱っている契約の種類が広いこと
  2. 各章冒頭の「総論」に全体的な留意点が示されていること
  3. 条文や判例のみならず、政府当局の通達や各種民間団体の契約ひな形まで紹介されていること

良い点1:取り扱っている契約の種類が広いこと

ひな形の種類

本書でひな形が掲載されている契約は次のとおりです。

  1. 商品を目的物とする継続的売買契約(=取引基本契約)
  2. 不動産売買契約
  3. 普通賃貸借契約
  4. 定期建物賃貸借契約
  5. 業務委託契約
  6. 動産譲渡担保権設定契約
  7. 集合動産譲渡担保権設定契約
  8. 将来債権譲渡担保権設定契約
  9. 株式譲渡契約
  10. 事業譲渡契約
  11. 吸収分割契約
  12. 販売店契約
  13. 代理店契約
  14. 合弁契約
  15. ソフトウェア開発契約
  16. 共同研究開発契約
  17. 実施許諾契約

あらためて本書のレビューを書くにあたり、インターネット上の他の皆様のレビューを参照しましたが、その中で「範囲が広すぎる」との声がちらほらありました。しかし、私はかなりお世話になっています。どれぐらいお世話になっているか、以下、次の3パターンに分けて掲載項目を再確認します。

①赤文字:本書購入後に初めて審査業務を経験した契約類型のうち、本書を参照したもの
②青文字:本書購入前から審査業務を経験していた契約類型であるが、購入後に本書を参照したもの
③緑文字:本書購入前から審査業務を経験していた契約類型であるが、購入後も本書を参照しなかったもの
④黒文字:本書購入前~購入後本日現在までにおいて審査業務を経験したことが無い契約類型

  1. 商品を目的物とする継続的売買契約(=取引基本契約)
  2. 不動産売買契約
  3. 普通賃貸借契約
  4. 定期建物賃貸借契約
  5. 業務委託契約
  6. 動産譲渡担保権設定契約
  7. 集合動産譲渡担保権設定契約
  8. 将来債権譲渡担保権設定契約
  9. 株式譲渡契約
  10. 事業譲渡契約
  11. 吸収分割契約
  12. 販売店契約
  13. 代理店契約
  14. 合弁契約
  15. ソフトウェア開発契約
  16. 共同研究開発契約
  17. 実施許諾契約

上記「赤」「青」「緑」の合計が、私の実務で関係した契約です。これらの打率は11/17ですので6割4分7厘、私の主観としては高打率です。

初体験の契約書に対応する(「赤」の契約)

まず何より、初体験の契約書を審査する際は効果抜群でした。

私はメーカー勤務ですので、たとえば「不動産売買契約なんて(将来、司法書士試験に合格した場合は置いておいて)業務で使わないでしょう」と思っていましたが、事実は小説より奇なりで、私のところに回ってきました。他に、集合動産譲渡担保契約なども、「こんなん見たことないぞ、ほんとに実在するのか?」と思っていましたが、ある日突然やってきました。

未経験の契約書が突然やってきた際、信頼できる解説が手元にあるのと無いのでは大違いだと思います。日ごろ依頼が来ない契約類型への備えとして、本書が手元にあると安心です。

知識の整理および漏れの補充に使用する(「青」の契約)

今まで実務で審査した経験がある契約類型でも、これまでの知識を整理したり、足りない知識を補充したりする際、非常に有用です。特に、OJTで先輩から受けた指導内容の背景にある根拠を自分で勉強したり、知識の漏れを埋めたりするには最適です。

参照していないが、自分の業務に関係する(「緑」の契約)

参照していない理由はケースバイケースですが、決して「この本が悪い」という話ではありません。

  • 取引基本契約:書籍に頼らなくても、既にある程度レビューできる
  • 定期建物賃貸借契約:部門からの依頼後、案件が消滅した
  • 販売店契約:購入前は審査したことがあるが、購入後は審査の依頼が無い
  • 代理店契約:購入前は審査したことがあるが、購入後は審査の依頼が無い

素晴らしい汎用性

繰り返しになりますが、上記「赤」「青」「緑」の3分類で、この本と今日現在の私とのシンクロ率は64%です。私はこの64%を肯定的に評価しています。「契約審査の本を何か一冊買うなら?」という質問が来たら、この本だと思っています。たった一冊でここまで使える、素晴らしい汎用性です。

良い点2:各章冒頭の「総論」に全体的な留意点が示されていること

各契約につき、冒頭の「総論」の部分でその契約の意義や法的性質が説明されています。私は、この「総論」の記載内容を理解できるかどうかという点が、当該契約の審査に必要とされる知識や経験が今の自分に足りているかどうかを見極める基準の一つとして利用できると考えています。

つまり、「総論」部分を読んだ際に「あぁなるほど」となれば、本書の解説がちょうどよいレベルである一方、読んでも「???」となれば、別の書籍を探したり、周りの先輩や顧問弁護士に教えを請う必要があります。

偉そうに言っていますが、私が初めて本書を読んだ際はこんな感じでした。

  • 不動産売買契約→「あぁなるほど」
  • 業務委託契約→「あぁなるほど」
  • 集合動産譲渡担保権設定契約→「あぁなるほど」
  • ソフトウェア開発契約→「あぁなるほど」
  • 共同研究開発契約→「あぁなるほど」
  • 株式譲渡契約→「??? ごめんなさいギブアップです」
  • 合弁契約→「??? ごめんなさいギブアップです」

私の場合、特に集合動産譲渡担保権設定契約が「あぁなるほど」でした。集合動産譲渡担保権設定契約は初めて観る契約でしたが、法的根拠のところは司法書士試験の勉強で少し知識がありました。あとは実務にどう落とし込むかという点ですが、本書はこの点についてしっかり解説されており、非常に勉強になりました。集合動産譲渡担保権設定契約のページには「これでもか」というぐらいラインマーカーが引いてあります。

逆に、総論を読むだけでは理解できなかったのが、株式譲渡契約と合弁契約です。これらはM&Aの契約に特化した本が別途必要になると思います。私の場合、これらの業務は未経験でしたので、本書だけではあまりイメージもわきませんでした。幸い、顧問弁護士の先生にいろいろと教えてもらうことができましたので何とか乗り切れましたが。このように、本書はある程度のレベルの方を前提に記載されていますので、私のように読んでも「???」となる場合は、別の解決手段を頼るべきでしょう。

良い点3:条文や判例のみならず、政府当局の通達や各種民間団体の契約ひな形まで紹介されていること

例えば先ほどの集合動産譲渡担保権設定契約では、民法の条文、判例や通説的な考え方等が紹介されており、これを前提にどのような条項を設ければよいかといった説明がなされています。

他に、業務委託契約では、問題となりやすい「偽装請負」について説明するとともに、これに関する厚生労働省の通達や告示の内容まで紹介しています。これらの通達や告示は、「知っている人は知っている」一方、「知らない人はずっと知らない」という事態に陥りがちです。繰り返しになりますが、OJTで先輩から受けた指導の背景にある根拠を確認したり、自分の知識の漏れを埋めたりするのに格好の教材です。

また、ソフトウェア開発契約では、単に本書のひな形を紹介するだけでなく、経済産業省や一般財団法人電子情報技術産業協会が作成したモデル契約書の内容についても言及されています。冒頭記載のとおり、この本を参照する機会の一つとして「今まで全然見たことのない業種の契約書を突然見ることとなった場合」を挙げましたが、特にこういう場合は、その業界で有名なひな形の紹介があるとありがたいですね。たとえば、普段の業務ではシステム開発と全然縁のないメーカー法務の人に、「実は、システム開発契約には経済産業省のひな形があるんですよ」と言っても「知らんがな」となるでしょうし。

まとめ

最近は契約審査の業務から離れていたのでしばらく参照していませんでしたが、あらためて見てみると非常に良い本です。

そして、過去の自分は顧問弁護士の先生や先輩から教わったことを本書にたくさん書き込んでいました。当時の自分が「契約審査にはいろいろな本があるけど、どれか一冊といればこれになる。先生や先輩から学んだノウハウをどこかにメモしてまとめたいが、散逸すると困るので、この一冊に集約しよう。」と考えていたことを思い出しました。ちょっと感動しました。

当時の想いを胸に、また明日から試験勉強と業務に励みたいと思います。

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